同級生が結婚した。

「入籍しました!彼と幸せになります!」

 

日曜昼、二度寝から目覚め、昨日の鍋にうどんを突っ込みながら見ていたストーリー。小学校時代の同級生が、幸せそうな顔で笑っていた。

 

彼女とは六年生で一度同じクラスになったきり。当時中学受験に向けて勉強に打ち込んでいた僕にとって、学校の授業は質の低い復習でしかなく、同時に知識をひけらかすステージだった。勉強重視の学区というわけでもなく、僕が浮いた存在になったのも当然だろう。

 

そんなクラスで僕と同様に浮いていた存在、それが彼女だった。僕とは別の進学塾に通っていて勉強は得意、ただ僕とは対照的に自分の能力を誇示しない、物静かな人だった。

 

九月の放課後。よく覚えている。夕暮れ差し込む教室で、帰り支度をしていた僕に彼女が話しかけてきた。「〇〇君、この問題解ける?」算数の問題集を差し出してきた。多分、図形の問題だったと思う。悪目立ちしていた僕を試したのか、純粋に聞いたのかは定かではないけれど、他人が自分を頼ってきたのが当時の僕は純粋に嬉しかった。

 

しかし解けなかった。シンプルに面積を求める問題だったにもかかわらず、5分、10分と時間は経ち、僕の横で所在無さげに立っていた彼女の「……もういいよ。」で我に返った。20分経っていた。

「○○君で無理ならもうダメだね。塾の先生に聞くよ。ありがとう、じゃあね。」彼女はそう言って、ランドセルを背負い、足早に帰っていった。この時の彼女の申し訳なさそうな笑顔は今でもたまに思い出す。

 

それからというもの、僕はより一層勉学に打ち込んだ。いつ彼女から質問を受けても良いように。自分より難しい問題を解く彼女を超えるために。しかしあの放課後は気まぐれだったのか、それから2度と、彼女が来ることはなかった。そのまま話すこともなく卒業を迎え、僕は無事合格し県外の中学校へ進学した。風の噂で彼女は全落ちし、地元公立に進学したと聞いた。

 

大学2回生の秋。部活にもサークルにも入らず、家と大学を往復だけしていた僕のインスタに1件のフォロリクが来る。画像と名前からして明らかに彼女だった。小学校での日々を思い返しながら恐る恐るアカウントを覗くと、思い出の姿から少しあか抜けた、でも目元の変わらない彼女がそこにいた。

地元の女子大に進学したらしく、充実していそうな日々を送っている彼女がなぜ今になって僕のアカウントを見つけたのは謎だが、今のほぼ死んだような生活をしている僕には眩しすぎて、「久しぶり!いきなりフォロリクきてびっくりしたわ笑」の一文ですら送ることはできなかった。記憶の中の存在でしかなかった彼女が、動画で楽しそうに笑っていた。

 

なんとなく就活をはじめ、最初に内定が出たメーカー事務職に就職し、東京の本社で全く興味のない経理をすること3年。どうにか仕事に慣れ、少しずつ余裕が出てきた矢先の出来事だった。どうやら彼女の相手はインカレサークルで知り合った旧帝大の商社マン。僕のようなメーカー事務職風情は吹いて飛ぶような年収だろう。どこで間違えたのだろうか。目の前のうどんは、もうすっかり伸びきっていた___。

 

妄想です。